何気ない毎日の中で目に映る景色。
つい見逃したり無意識に目を逸らしてしまうものの中に、そこからの人生を変えてしまうような欠片が落ちていたりする。
そんな欠片は、輝いている事は殆どない。
大抵誰にも気付かれず皆に踏み付けられて、触る気にもなれない程に汚れている事が殆ど。
でも、自分にはなぜか分かる。
どんなに気付かなかったふりをしても、それが大切なものだとどこかがキャッチしている。
これは自分の一部なのだと。
~ 過去の私の欠片を拾う ~
ある日また道を歩いている時、私は新しい欠片に出会う。
その日は季節外れの暑さで、気だるく重い身体を引きずるように歩いていた。
その欠片は、下を見ながら歩いている私の目に止まった。
歩みを止めてよく見る。
タールのようなもので汚れ、とても触りたくない感じだったが、確実にそれは自分の一部なのだという確信があった。
少しの時間ためらい迷ったが、近くの森から大きな葉を何枚か取ってきて、その葉で包んで持ち帰る事にした。
大きさはそんなに大きくはない。
ただ、その汚れからは何とも言えない悪臭が漂ってきそうで、出来るだけ顔を背けながら家まで持ち帰る。
家に着いて、べた付いた汚れをそぎ落とそうかと思ったけれど、思うようにいかない。
洗った所で簡単に汚れを落とす事は無理のよう。
私は日が当たる場所でよく乾燥させてみる事にした。
数日晴れた日が続いたお陰で、そのべとついていた汚れはカチカチになっていた。
私はハンマーとくさびを使って、傷をつけないよう丁寧に汚れを割っていった。
すると、中から欠片の姿が段々現れる。
グレーのような少し透けた色の破片だった。
汚れを取り払った後、丁寧に洗いそして磨きをかけていく。
もう触りたくない感覚は消えて、どこか愛おしさを感じていた。
すると私はまた不思議な感覚になり、ぼんやりと白昼夢を見る。
拾ってきた欠片を磨きながら、私は過去の私の人生と思われる映像を見ていた。
~ 記憶の鍵を開ける ~
目の前に男性の顔が浮かぶ。
多分過去の私。年齢は30代位だろうか。
とても不安そうな目をして、何かに悩んでいる。
暗い部屋の中で、居ても立ってもいられないソワソワした様子。
何かを待っていて、それがとても気になっているらしい。
そして場面が変わる。
ここはアメリカだろうか。
夜のジャズバー。
お店の中ではミュージシャンやお客達が、音楽を楽しんでいる。
そこに、先程の過去の私と思われる男性がいる。
演奏を楽しんでいる様子。
どうやらこの過去の私は、生のセッションを聞くことをとても楽しみに、ジャズバーに通っているようだ。
演奏後にミュージシャン達と話せるのも、楽しみの1つになっている。
黒人のミュージシャンに、楽器は演奏しないのかなど聞かれている。
自分には楽器演奏なんて出来ないと思っていたのに、過去の私は段々と演奏する事に興味が出て、ただの憧れで終わらせたくなくなっていく。
そして私は、憧れのアルトサックスを買った。